MMD研究所の調査によれば、携帯電話を所有する60歳~79歳の男女のスマートフォンの利用割合は年々増加傾向にあり、今年2019年には、携帯電話を所有するシニアのうち70%近くがスマートフォンを利用している事がわかりました。
4年前の2015年の約2倍の利用割合の増加となっており、今や、シニア層であってもスマートフォンの利用が当たり前になっている現実があるようです。
また別の調査では、シニアが利用しているスマートフォンの機種が「iPhone」であるとの結果が出ています。
「あれ?通信各社で力を入れているシニア向けスマホが1位じゃないんだ?」
そう思った方も少なくないと思いますが、あの「シニア向けスマホ」は、シニアにお勧めとは言い難い端末で、筆者も相談を受けた場合には「シニア向けスマホ」は避けるようにとお話しする事が多いのです。
今回は、シニア向けに作られたはずなのに、シニアにお勧めできないシニア向けスマホに迫ります。
目次
「らくらくホン」のTVCMは多くの方が目にした事があると思いますが、らくらくホンはNTTドコモのシニア向けスマートフォンです。
NTTドコモだけでなく、au・Softbank、さらに、サブブランド系のY!mobile・UQmobileでも、呼び名こそ違えど、シニア向けスマートフォンをラインナップしています。
NTTドコモのシニア向けスマホの現行モデルは、「らくらくホンme F-01L」です。
2019年2月に発売になったモデルで、富士通が供給しています。
NTTドコモのシニア向けスマートフォンは、「らくらくホン」という名称でモデルチェンジを繰り返しながら継続的に提供されています。
視力が衰え、機械慣れしていないシニアでも操作できるように、主だった機能だけを大きなボタンでまとめたメニュー画面は、いかにもシニアの使いやすさを追い求めた…という印象です。
現在のシニア向けスマートフォンは、よく利用するメニューや機能を、メニュー画面に集中的に大きなボタンで表示する形が標準的ですが、まさにその標準を作ったのがNTTドコモのらくらくホンだと言えます。
画面サイズは4.7インチ(iPhone 7と同じサイズ)で、1,310万画素のアウトカメラ、500万画素のインカメラに、防水防塵・ワンセグ・おサイフケータイ等の機能を付加したもので、搭載Androidが「8.1」と若干物足りない以外は、一般のスマホートフォンでも通用するスペックを持っています。
auのシニア向けスマホの現行モデルは2系統あって、こちらは「Basio 3」です。
2018年1月に発売になったモデルで、京セラが供給しています(2020年にBasio 4が発売予定)。
らくらくホン同様に、よく使いそうな機能を大きなボタンにまとめたメニューデザインとなっています。
NTTドコモのらくらくホン以外のシニア向けスマートフォンの多くは、スマホメーカー各社がラインナップしている機種に、キャリアごとにネーミングを与えたものが多く、メーカーが一緒だと仕様も性能・機能も同等という事がよくあります。
Basio 3を提供している京セラは、auの大株主ですので、同じKDDIグループのUQmobileにも「おてがるスマホ」という名称でシニア向けスマホを提供しています。
Basio 3は、5.0インチ画面に、1,300万画素のアウトカメラ、防水、ワンセグ等の機能を搭載していますが、おサイフケータイ機能はなく、搭載Androidも「7.1」と現行モデルとしては少し性能・機能不足を感じさせます。
こちらは「AQUOS sense2 かんたん」です。
2019年6月に発売になったモデルで、SHARPが供給しています。
こちらも、よく使いそうな機能を大きなボタンにまとめたメニューデザインとなっていますが、特に、時計下中央の分かりやすい場所に設置されている「auかんたんガイド」アプリは、基本操作や、スマホでやりたい事をどうしたらいいのか等を楽しく学べる学習アプリで、シニアがスマホを使う上でのサポートとなります。
AQUOS sense2 かんたんは、今年発売されたモデルだけに、IGZOディスプレイ採用5.5インチの大画面に、Androidも9Pieと進化しており、1,200万画素のアウトカメラ、防水、おサイフケータイ機能を搭載しています(ワンセグはなし)。
Softbankのシニア向けスマホの現行モデルは「シンプルスマホ 4」です。
「シンプルスマホ 4」は、2018年7月に発売になったモデルで、SHARPが供給しており、同メーカーだけに、auの「AQUOS sense2 かんたん」と共通のデザインとなっています。
他のシニア向けスマホ同様、よく使いそうな機能を大きなボタンにまとめたメニューデザインとなっています。
シンプルスマホ 4は、IGZOディスプレイ採用5.0インチ画面に、1,310万画素のアウトカメラ、防水防塵、ワンセグ等の機能を搭載していますが、おサイフケータイ機能はなく、搭載Androidも「8.0」と現行モデルとしては若干物足りないスペックです。
Y!mobileのシニア向けスマホの現行モデルは「かんたんスマホ 4」です。
「かんたんスマホ 4」は、2018年8月に発売になったモデルで、京セラが供給しており、同じメーカーなので、auの「Basio 3」と共通の画面デザインとなっています。
やはり、他のシニア向けスマホ同様、よく使いそうな機能を大きなボタンにまとめたメニューデザインとなっています。
かんたんスマホ 4は、5.0インチ画面に、1,300万画素のアウトカメラ、防水防塵、ワンセグ等の機能を搭載していますが、おサイフケータイ機能はなく、搭載Androidも「8.1」であり、Basio 3よりは進化していますが、現行モデルとしては物足りないスペックです。
Y!mobileは、ボタンを押すだけで専任スタッフが応対する「押すだけサポート」や、60歳以上は全ての通話が無料になる等のシニア向けのメニューを充実させているます(かんたんスマホ購入者のみ利用可能なサービス)。
UQ mobileのシニア向けスマホの現行モデルは「おてがるスマホ 01」です。
「おてがるスマホ 01」は、2019年2月に発売になったモデルで、auの「Basio 3」と同じ京セラが提供しているため、画面デザインも共通となっています。
画面は、他のシニア向けスマホ同様、よく使いそうな機能を大きなボタンにまとめたデザインとなっています。
おてがるスマホ 01は、5.0インチ画面に、1,300万画素のアウトカメラ、防水防塵など、Basio 3同様に基本を押さえたスペックとなっていますが、ワンセグ・おサイフケータイ機能が落とされていますし、搭載Androidも「8.0」と、Basio 3よりは進化しているものの、現行モデルとしては見劣りするスペックとなっています。
ここまで紹介した各社のシニア向けスマホのスペックを比較してみます。
機種名 | キャリア | OS | 画面 | アウトカメラ | 防水防塵 | ワンセグ | おさいふ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
らくらくホンme | ドコモ | Android 8.1 | 4.7 | 1,310万画素 | 〇 | 〇 | 〇 |
Basio 3 | au | Android 7.1 | 5.0 | 1,300万画素 | 〇 | 〇 | × |
AQUOS sense2 かんたん |
au | Android 9Pie | IGZO 5.5 |
1,200万画素 | 〇 | × | 〇 |
シンプルスマホ 4 | Softbank | Android 8.0 | 5.0 | 1,310万画素 | 〇 | 〇 | × |
かんたんスマホ 4 | Y!mobile | Android 8.1 | 5.0 | 1,300万画素 | 〇 | 〇 | × |
おてがるスマホ 01 | UQmobile | Android 8.0 | 5.0 | 1,300万画素 | 〇 | × | × |
性能的には、2019年発売のau「AQUOS Sense2 かんたん」が最もハイスペックだと言えますが、決定的な差はありません。
また、画面サイズはNTTドコモ「らくらくホンme」が唯一4インチ台で、他は全て5インチ超となっていますが、これも実際の利用上で何か決定的な違いがあるかと言えば、そうでもありません。
どれをとってもまあまあの性能で、逆に言えば、現時点でのトップレベルのスペックにはどのモデルも至っていない…、つまり「シニアにはこの程度のスペックで充分だろう」「どうせ使いこなせないのだから抑え気味のスペックで充分だ」と言われているような気がしてなりません。
いかにもシニアの使い勝手を考慮して作られています然とした、いわゆるシニア向けスマートフォンは、実はシニアにお勧めのスマートフォンではありません。
なぜなんでしょうか…。
各機種の紹介の中で共通していた事が1つありました。
画面サイズやカメラの画素数などのスペックの違いではなく、画面デザインです。
シニアが使いやすいように…と特別に作られたメニュー画面が、実はシニア向けスマホをお勧めしない理由なのです。
シニアがよく使うであろうメニューを集中的に大きなボタンで画面内に収めたメニュー画面は、購入当初は確かに使いやすい面もあります。
特にスマホが初めてのかたにとっては、まずは「電話」で、よくかける通話先を1~5の番号に割り振って置けますし、メール画面やインターネットへのアクセスも、検索やPlayストアのアクセスもボタン一発、同様に、カメラの起動、dメニューの起動等もボタン一発です。
でもシニアが使う機能はそれだけではありません。
次第に使い慣れてくれば、可能な限り様々な機能を使うようになってきますが、メニュー画面に表示されていない機能やメニューを見つけるのが大変という側面がある事もまた事実です。
「こんなことしたい」
「あんなこともやってみたい」
そう思ったシニアはどうするでしょう。
ドコモショップやauショップ等のキャリアショップへ出向いて、スタッフに聞きますか?
今や、各社のキャリアショップは業務が多すぎて1人1人にかかる時間がどんどん伸びてしまって、シニアが1つ2つ程度の分からない事を気軽に聞きに立ち寄れるような雰囲気ではなくなってしまいました。
今どきのキャリアショップは、予約なしで出向いても、何時間待たされるか分かったものではありません。
Y!mobile、UQ mobileの場合は、キャリアショップよりも混雑が少なく、待ち時間も少しで応対して貰えるかもしれませんが、スタッフは専門に教育を受けている場合が少なく、もしかすると、求めている操作や機能説明を満たしてくれないケースがあるかもしれません。
スマートフォン関連の参考書は書店に行けば売り場から溢れんばかりにありますが、実はシニア向けスマホに関する参考書はあまり見かけませんし、一般向けの参考書にはシニアスマホに関する記述のない本がほとんどです。
インターネットでも同様で、シニア向けスマホの操作や活用法を取り上げたWEB等もあまり見かけません。
つまり、参考書やネットで自分で調べること自体が簡単ではない上、操作が分からずに調べたい人が、ネット上で自分の目的のサイトをバリバリ探し出せるとは、ちょっと考えにくい…という現実問題もありそうです。
では、最も身近な存在である家族に教わる…というのはどうでしょう。
参考書にもネットにも情報があまりないことを家族に尋ねても、家族が知っている可能性は限りなく低いはずです。
そもそも、家族がシニアスマホを使った事がないのですから、家族にとってのシニアスマホはブラックボックスでしかありません。
操作や、ボタンの配置、搭載された機能・性能など、全く知見がない状態から、取説やネットで調べる等して教えてくれるかもしれませんが、それは家族にとって大きな負担であり、度重なれば煩がられ、面倒くさがられるのは目に見えています。
以上のように、シニア向けスマートフォンは、シニアの使い勝手や、簡単に操作する事に特化するあまりに、ブラックボックス化してしまったスマホであると言えます。
かつて、日本の携帯電話が、日本国内だけに通用するサービスに特化しすぎて、「ガラパゴス携帯」と呼ばれ、世界標準を大きく逸脱し、世界の市場で勝負ができなくなった歴史があります。
それと同じで、シニアが使う事を意識しすぎるあまり、シニアがよく使う機能を見つけやすく配置する事で、使いはじめこそその目的を果たせますが、シニアがそれ以外の機能を使い始めると途端に、使い勝手の悪い、操作にしても、機能にしても「特別」過ぎるシニアスマホの本性が現れる…といった具合です。
筆者は、仕事がら数多くのスマホを扱ってきましたので、実際に使った事のないスマホでも、AndroidにはAndroidのパターン、iPhoneにはiPhoneのモデルを跨いだ一貫性がありますので「推して知るべし」が通用しますが、シニアスマホに関してはこれが通用しません。
シニアスマホを説明するなら、実際に購入して実機を触ってからでないと説明できないと思います。
それだけ、シニアスマホが特別で、ブラックボックス化してしまったと言えそうです。
実は最近、筆者は親世代のスマホ化と、格安SIMへのキャリア移転を行ったばかりです。
これまでずっとガラケーだった父母を、ガラケー→iPhone 7に換え、キャリアもNTTドコモ→Y!mobileに乗換えさせました。
その際にも、父から「シニア向けのスマホがあるそうだね」と言われたのですが、「使いにくいからダメ」と一蹴しました(笑)。
・いいけど、操作が特殊だから分からないと言われても、子供世代は誰も教えられないよ
・自分で、ショップへ行って聞くなり、参考書買って調べるなら止めはしない、参考書に書いてあるかも保証できない
・iPhoneにしとけば、孫たちに「じいじ、すご~い」って言われるぞ
等々で、全く聞く耳持たぬ…状態で、iPhoneに交換して貰いました。
もちろん、自分も家内も長年使慣れたiPhoneであれば、大抵のことは分かりますし教える事もできますし、iPhoneに関する参考書なら星の数ほど刊行されていますので、評判の良い1冊与えておけば、自分たちで調べる事も難しいことではないはずですから。
自分たちが実際に使った機種であればこその教え安さも、参考書でもネットの情報の豊富さも、iPhoneでも、Androidでも、子供世代が普段使っている機種をシニアにも持ってもらう事のメリットですが、メリットはそれだけではないと感じます。
それが、同じ機種を持っているからこそのコミュニケーションです。
前述の我が家での親世代の端末変更の結果として、同じ機種を持つ事での会話の増加を感じます。
多くの場合、親世代からの疑問や質問の投げかけがきっかけですが、iPhoneの楽しさや面白さ、例えば、「こうやると写真がちょっとカッコよくなるよ」だとか、「こうやると、目的の機能をすぐに出せるんだよ」等の、「教える」という義務感の強い領域を抜けた会話が増えたように思います。
親世代は、子供世代の忙しい日々を邪魔したくない…と聞きたい事も聞けずにいる一方、子供世代は、「教えなきゃ」という義務感に駆られてイライラしたり…といった様子とは違って、共通の話題ができた事によるスムーズなコミュニケーションが生まれたかな…等と最近よく思うのです。
最近、夫婦で出かけた際や、例え、自宅での晩御飯であっても、何かと写真にしてはLINEトークで送る事が多くなりました。
それは、子供世代がどんな毎日を送っているのかを伝えるだけでなく、スマホを開く、INEを立ち上げる、トークを開く、メッセージや写真を見る、写真を保存する、返信する、自分たちからも写真を送る…等々の1つ1つが親世代がiPhoneに慣れてゆく練習になるから…と思っているからです。
そのせいもあるかもしれませんし、自分たちの頑張りも相当だと思いますが、どんどん、使いこなしてゆく親世代を見ているのは気持ちの良いものですし、ボケ防止などにも効果があればいいな…等と思っている今日この頃です。
要は、せっかく共通の会話の「種」にできるのに、子供世代が触った事もないシニア向けスマホを持たせて放置してしまうより、自分たちと同じ、あるいは、使った事のある機種を持たせる事で、共通の話題も生まれ、コミュニケーションの活発化も図る事ができ、さらにはシニア世代のボケ防止にまで貢献するとすれば、せっかくのチャンスをシニアスマホなんぞで無駄にすべきではないと思う次第です。
どれはAndroidでも、iPhoneでも同じですが、ホームボタンのあるモデルでも、ない全画面モデルでも、基本操作が一貫しているiPhoneは教え安さも抜群ですし、所有する親世代のステータス等の面でも満足度が高いのではないかと思います。
そう遠くない時期に、ガラケーの電波は止まり、サービス自体が終了するため、どうしたって、スマホ化をする必要があるのですから、その機会に、さらなるコミュニケーションを図ってみては如何でしょうか。
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